可能性

・依頼受付日時
  7月△△日
・依頼人名
  妙瀬田 裕輝
・依頼人連絡先
  070-○○○○-××××
・依頼内容
  海水浴場に潜む×××の調査
「棘くん、神経伝達物質って知ってる?」

 業務用の巨大な冷蔵庫から卵を取りだしたわたしが脈絡もなく尋ねると、一心不乱に生姜をすりおろしていた棘くんが顔をあげた。砥粉色のすき間から見えるその額には、うっすらと汗がにじんでいる。

 食堂の調理場には窓が備えつけられているものの、この時期はちょっと目を離すだけで虫が這入りこんでくる。広い調理場にはもちろん大型の空調設備もあるけれど、ここで働く調理員が使用するためのものであって、朝食と弁当作りのために間借りしているわたしたちが勝手に使用していいものではない。

 頼みの綱は古びた換気扇だけだった。けれども小さな換気扇のひとつやふたつで、夏特有の湿気を含んだ空気が支配するこの空間をどうこうできるわけもない。

 冷蔵庫からこぼれた冷たい空気を、棘くんにも届くようにパタパタとうちわで流す。それが届いたのかはわからないけれど、棘くんは気持ちよさそうに眼を細めた。さらさらの髪をなびかせたまま、質問に答えるように頭を上下させる。

「しゃけ」
「知ったかぶりしてない?」
「おかか」
「本当かなぁ?」
「お、か、か」

 強い語調で言うと、棘くんがわたしの手からうちわを奪った。まるで不満を示すようにわたしに数秒間バタバタと凄まじい風量をぶつけたあと、今度は自分をあおぎはじめる。

 それでもわたしは疑いの目を向けながら、冷えた卵を右手につかんだ。片手で割った卵が次々と銀色のボウルに落ちていった。流れる動作で菜箸を手に取ると、ぷっくりと盛りあがった色濃い卵黄と粘り気の強い卵白をリズミカルにかき混ぜていく。

「じゃあ続けてどうぞ――グルタミン酸」
「いくら」
「アドレナリン」
「明太子」
「ドーパミン」
「こんぶ」
「エンドルフィン」
「ツナ」
「オキシトシン。意外と詳しいね?」

 わたしはボウルを置いて、棘くんのほうに左手を伸ばした。「おかか」とかぶりをふった棘くんが、事前に用意していた出汁の入った小さなボウルを手渡してくれる。それを溶き卵に加えてさらにかき混ぜながら、「ウソ、あれ読んだの?」と問いを重ねた。

「しゃけ」
「昨日?」
「おかか」
「えっ、今日?そんな時間から起きてたんだ」
「しゃけ。すじこ」
「暇潰しに読む本じゃないと思う……」
「いくら」

 面白かった、と棘くんはちょっと声を弾ませた。

 どうやら棘くんは、わたしが昨日都内の公立図書館で借りてきた脳科学の本を、その借り主が起床するまでのたった一時間で読み終えてしまったらしい。専門書といっても素人や初心者向けの内容だから、文字はそれほど細かくないし、イラストも多いから読みやすい。

 それでも専門的な内容について約三百ページも語られている本を、どうして一時間で読破できるのだろう。呪術とは大きくかけ離れた、聞き慣れない専門用語ばかりだというのに。

「それではここで好奇心旺盛な棘くんに問題です」
「明太子っ」
「棘くんが呪言を使用したとき、呪言は相手の脳のどの部分に大きく作用していると考えられるでしょうか」
「……こんぶっ」

 そう、正解は大脳の前頭連合野だ。

 わたしは正誤の判定を待つ棘くんを見つめる。流し読みではなく、内容をきちんと記憶し理解している。

 後輩である伏黒くんが天才だ天才だと言われているせいで忘れがちだけれど、棘くんだってまだ高専二年だというのに、準一級呪術師として第一線で活躍しているのだ。わたしのようなインチキではなく、正真正銘の実力で。

 自らの術式に関係していることとはいえ、脳科学という専門外の分野にまで好奇心や記憶力が及ぶのは素直に感心する。棘くんもやっぱり天才なのだろう。

 わたしがいつまで経っても答えを言わないからか、不安をにじませた棘くんが首をひねった。

「おかか」
「ううん、間違ってないよ。正解です。正解だと思います、が正しいかな」
「すじこ」
「そうだね、いつか解明できたら面白いね。じゃあ続いて次の問題」
「しゃけっ」
「神経伝達物質のひとつにフェニルエチルアミンがあります。さて、これはどんなときに分泌される物質だと考えられているでしょうか」

 フェニルエチルアミンについて、あの本ではそれほど詳しく説明されていなかった。欄外に小さく載っていただけだ。だから、これはちょっとした意地悪問題だった。

 きっと答えられるはずがない。

 心の中でほくそ笑んでいたのに、棘くんは表情を欠いた顔でしばらく思考をめぐらせたあと、なにを思ったかわたしの手からボウルと菜箸を取りあげた。調理台の上にそれらを置くと、その手で今度はわたしの腰を引きよせる。

 棘くんの顔が至近距離にあった。勿体ぶるような手つきで、ゆっくりと紫のカラーマスクを引き下ろす。蒸れた空気が広がる感じがした。熱気と汗で上気した頬が小さな笑みを刻んだときには、わたしの腰はがっちりと固定されていた。

 逃げる間もなく、湿った唇を重ねられる。

「ツナ」

 こういうとき。そう言ったあと、ダメ押しのように目を細めた。

「ツナマヨ」

 恋をしているとき。

「おかか」
「……せい、かい、です」

 ぼそぼそと言葉を区切りながら正解を告げると、棘くんは満足げにわたしを解放した。茶目っぽい光を瞳に灯したまま、カラーマスクを引きあげる。

「しゃけしゃけ。こんぶ」
「……そう、フェネチルアミンともいう。どうしてそんなに記憶力いいの?」
「おかか」

 だってが真剣に調べてることだから。棘くんは笑いながら、さも当然のことのように言った。それ以外の答えなんて、どこにもないとでも言いたげな口振りで。

 羞恥で下唇を噛むわたしには目もくれず、棘くんは大量の醤油が入った業務用のプラスチックボトルを自らの近くまで移動させて、「いくら」と計量スプーンを探しはじめた。

 ずるい。わたしばっかりドキドキしてる。

 身体を沸騰させるほどのひどい熱を少しでも早く落ち着かせたくて、棘くんを視界に入れないように注意を払いつつ、長方形のたまご焼き器をコンロに乗せる。

 まだ動揺していることを気取られたくなかった。火をつけて油を引いたあと、いつも通りの声音を装って切りだした。

「ここに来る途中にたまたま五条先生に会ったから、興味本位でちょっと訊いてみたんだよ。“神経伝達物質を操作して意図的に負の感情をなくした場合、呪いは生まれなくなりますか?”って」
「しゃけ」
「そしたら、“それを違法薬物で実践してる呪詛師の宗教団体があるから、自分の目で確かめてきたら?”って言われた」
「……おかか」

 ひょっとして。よからぬことを予感した小さな声が、溶き卵の焼ける音と混ざり合う。いい塩梅で固まった卵をくるくるとひっくり返しつつ、わたしはしかめっ面でうなずいてみせた。

「そう、自分の仕事を押しつけてきたの。職務放棄だよ。余計なこと言うんじゃなかった」
「いくら」
「期限は夏休みが終わるまで」
「ツナ」
「夏休みの自由研究として調べて、だって。“神経伝達物質と呪霊の出現における関連性”――その研究結果と今後の呪術への応用を考察として、レポート用紙十五枚以上にまとめて提出すること」
「おかか」
「全然自由じゃない」

 銀色のボウルに残ったすべての溶き卵を流しこむ。どうしてこんなことになってしまったのだろう。わたしは自らの不運を嘆いた。

 呪術高専に通うわたしたちも世間一般の学生と同じように、夏休みの課題というものが課されている。それはもう、たっぷりと。ただ、数学や英語といった一般的な授業の課題よりも、呪術の課題のほうが圧倒的に数が多い。

 課題の中でも面倒と厄介を兼ね備えた最たるものは、“自由研究”のほかにはないだろう。

 春まで通っていた高校は進学校だったせいか、勉強に関する課題はあっても自由研究や読書感想文といった課題はひとつもなかった。自由研究などという七面倒な課題は小学生時代の六年間だけで充分だ。そもそも呪いも見えないわたしが、いったいなにを研究すればいいのかわからない。

 泣きつくように棘くんに助言を求めた。聞けば、去年の棘くんは新宿区に的を絞って、等級ごとの呪霊の分布について毎日調査をしたらしい。今年は渋谷区にしようかと考えている、との回答を得たものの、まったく参考にならなかった。

 研究テーマに困っていたから、ありがたいといえばありがたい。けれど、どうしてわたしのレポートは十五枚なのだろう。みんなは五枚なのに。絶対に多すぎやしないか。五条先生の“楽をして己の知的好奇心を満たしたい”という欲求がありありと透けて見える。なんだこの扱いの差は。理不尽極まりない。

 納得できない気持ちが、だし巻き卵を作る短時間の間に昇華されることはなかった。

 棘くんへの愛情よりも五条先生への不満がたっぷり入った、特製だし巻き卵ができあがる。コンロの火を消すと、食欲をそそる匂いにつられた棘くんが近寄ってきた。

「ツナツナ」と急かす棘くんに、「ちょっと待ってね」と笑みを返す。

 湯気が立ちのぼるだし巻き卵を、ちょうどいい大きさに切り揃えていく。そのひと切れを菜箸でつまむと、大きく開かれた棘くんの口の中にツヤツヤのだし巻き卵を放りこんだ。

 できたてはさすがに熱いだろう。棘くんがはふはふと口を動かしながら、だし巻き卵を咀嚼していく。

「星いくつ?」

と問いかければ、棘くんはパッと大きく右手を広げた。無事に五つ星を獲得できたようだ。よかったと思っていたら、話題は再び自由研究の話に戻ってきた。

「明太子」
「……えっ、いいの?」
「こんぶ」

 連名にしてくれるなら、と棘くんがしれっと付け足す。しかしその言葉の裏に隠された魂胆などお見通しである。生姜焼きのタレ作りに戻った棘くんの顔を覗きこんだ。

「ねえ棘くん、便乗してサボるつもりでしょ?」
「……おかか」
「絶対ウソじゃん!レポート書くの面倒だからって知ってるからね?」
「おかかっ」
「あっ、そう言っておけばなんとかなると思ってるな?!騙されないよ?!」
「お、か、かっ」

 棘くんが否定を繰り返すけれど、笑いをこらえているのはバレバレだ。まるで説得力がない。共同研究者とは名ばかりで、どうせわたしに全部書かせる気なのだ。

 こいつ……と思いながらにらみつけると、「ツナマヨッ」と笑顔で言ってきた。優しいがだーいすき。そんな軽い言葉でほだされてやるもんか、と心を鬼にする。

 無視してだし巻き卵を弁当箱に詰めていると、棘くんがわたしをうしろから抱きしめながら、優しく頭をなでてきた。愛を過剰にまぶした甘ったるい言葉を、わたしの耳元でささやく。

「めーんたーいこ」
「……み、耳ダメっ。くすぐったいってば」
「す、じ、こ……」
「……ひぃっ……う、ううっ」
「こーんぶ……」
「…………ま、負けました……」

 現状反撃の余地なし。全面降伏。否、これは戦略的撤退である。

「しゃけっ!」

 棘くんが勝利を味わうように握りこぶしを作った。狗巻棘め、覚えてろ。すぐに百倍返しにしてやるからな。

 ぎゃふんと言わせる方法を考えながら、わたしは冷蔵庫から生姜焼き用の豚肉を取りだした。昨夜から日本酒につけて、柔らかくなるよう下ごしらえをしたものだ。

 すこぶる機嫌のいい棘くんは、わたしの背後にベッタリとくっついている。どうやらタレ作りを無事に終えたらしい。料理には慣れていないというくせに、案外手際がいい。なんだかちょっと気に喰わない。

「代わりに書くからもう一回キスして?」

 軽い仕返しのつもりで言ったのに、棘くんは特に狼狽する様子もなく、わたしの手にあった豚肉を再び冷蔵庫に戻した。「しゃけ」と意地悪な言葉を口にしながら。

 そっちがその気ならこっちだって。

「あんなので満足するわけないじゃん」
「高菜」
「手加減なんて結構です」

 見下すようにねめつけると、長いため息が返ってきた。

「……おかか」

 ちょっと痛い目見て。地べたを這うような声がしたときには、視界の端に映る棘くんの口元を覆い隠すものはなにもなかった。

 冷蔵庫の大きな扉が音を立てて閉まる。肩をつかまれて身体の向きを強引に変えられる。銀色のそれに背中を押しつけられるのと口付けられるのは、ほとんど同時だった。

 さっきとはまるで違う、どこにも余裕のないキスに、全身の肌がぞわりと粟立つ。わたしの手のひらに、棘くんの手のひらがピッタリと重なる。右も左も棘くんの熱に縛られていた。真夏の日差しよりずっとずっと熱かった。棘くんの指の間に自分の指を差しこんで、ぎゅうっときつく握り返す。

 棘くんが口をわずかに開いて、今度は固く閉じた唇に噛みつくみたいなキスをする。呪いが刻まれた舌の先端がわたしの唇をなぞる。すき間に這入りこもうとするように。

 わたしの全部を貪り尽くしたいのだとわかった。身体のもっと奥からなにかか染みだす感じがする。身体をめぐる血液がぐつぐつと音を立てて沸騰している。

 熱に溺れそうだった。でも、それでもよかった。棘くんの手にしがみつく。その甲に爪を立ててしまうほど、強く。

 その熱に応じようと唇を割ったそのとき、調理場の扉が開く音がした。

 一番乗りに出勤した調理員のおばさまは、置物のように硬直したわたしたちを視界に入れると、「あら、気にせず続けて」と楽しそうに笑った。



* * *




 呪詛師が関わっているという件の宗教団体は、とある片田舎の山奥に本部を構えているらしい。下調べは自分に任せてほしいと棘くんが言ったので、素直に甘えることにした。

「……つまり幽霊に力を借りた呪術師のさんが、科学を駆使して呪霊と戦うと?」

 近くを通るからと塾の夏期講習を終えたわたしを拾ってくれたのは、優しさの権化とも呼ぶべき伊地知さんだった。何度も目をしばたたかせる伊地知さんに、わたしはにっこりと笑みを向けた。

「そういうことです」
「ちょっと待ってください。情報が大渋滞を起こしています。もう少しわかりやすく説明していただけませんか?」
「えっ、これで四回目ですよ。もう充分理解できてると思うんですけど」
「脳が理解を拒んでいるんです!」

 困ったなあと思いつつ、わたしは古文単語をまとめた単語帳を閉じた。道路脇に停車した普通車の窓から、緑に囲まれた呪術高専を眺める。できることならこのままずっと車内にいたかった。高熱を帯びた昼下がりの日差しを浴びる気になれるわけがない。そんなことをしたら、せっかく覚えた古文単語が耳から溶けだしてしまうだろう。

 伊地知さんはずっと「幽霊……科学……呪術……」とうわ言のように繰り返している。思考の整理に水を差すように、わたしは思いだしたことを口にした。

「あの、頼んでいたことなんですが」
「巨大クラーケンの話ですね!」

 食い気味で喜々とした声が返ってくる。自分の理解できる内容に会話が移ったからだろう。表情の明るくなった伊地知さんは、バックミラー越しにわたしを見据えた。

「数年前に呪いによる死亡事件が複数発生しましたが、すでに解決済みです。現在その海水浴場における呪いの目撃情報は確認されていません。巨大クラーケンがでるなどという噂の報告もゼロです。与太話では?」
「それも含めて調べてみます。“窓”が発見できていないだけかもしれませんし」
「幽霊に遭遇するかもしれないから、ですか?」

 言葉を継ぐように問いかけられて、わたしは深くうなずいた。伊地知さんは幽霊の存在を否定することなく、「そうですか」とだけ言った。

 わたしの気持ちを汲んでくれるその優しさに付け入るみたいに、バックミラーに視線を送る。

「もうひとつお願いがあって」
「なんでしょう?」
「加茂くんの連絡先を教えてほしいんです」

 数秒の間を置いて、伊地知さんが首をかしげた。

「禪院さんを頼ればいいのでは?」
「さすがの真依ちゃんも、加茂家嫡男の連絡先だけは教えてくれなくて」
「ほかは手に入れたわけですか」
「はい。そっちが本命なんですけどね」

 ともあれ、食いつきが悪くてずっと苦戦を強いられているけれど。口説き落とすためのもう一押し、そのための繋がりがほしかったのに、伊地知さんは険しい顔で首を横にふった。

「すみませんが、私から教えることはできません。同じ組織に属する術師、切磋琢磨し合う学生同士といえど、それは個人情報に当たります。コンプライアンスに違反し――」
「労働基準法もまともに遵守していない組織のくせに、個人情報にはうるさいんですね」
「その笑顔がものすごく怖いんですがっ!」
「伊地知さん知ってます?わたし、加茂くんより等級が上なんです。しかも二等級も上なんです」
「……もちろん知っていますが、それがなにか?」
「ついでに言うと、伊地知さんよりも上なんです。あ、これパワハラじゃないですよ?」
「わかって言ってるじゃないですか……」

 しおれた声の主はあきらめたように、わたしのスマホに連絡先を送ってくれた。

「私が教えたって絶対に言わないでくださいよ……」
「もちろんです」

 メッセージアプリを起動して、友だち追加を試してみる。電話番号で検索すると、“加茂憲紀”の名前が表示された。ちょっと意外だった。常に和装の加茂くんがスマホを使いこなす姿がまったく想像できなくて。

「最近ますます五条さんに似てきましたよね。五条さんかと思うときがありますよ」
「そんなこと言ったら五条先生に怒られますよ。凡人と一緒にするなって」
「凡人だ凡人だと言いますが、さんは」

 しかし、それ以上は言葉が続かなかった。伊地知さんは口を開いたままだったけれど、言葉にならなかったのか唇を固く結った。その慰めは傷を抉るだけだと慮ってくれたのだろう。

 呪いも見えず、呪力もほとんどなく、たいした武器もないただの凡人。上層部からしてみれば、呪術師を名乗ることすらおこがましい一般人。

 わたしは参考書と貸出本が詰め込まれたカバンを抱えた。お弁当と水筒が空になっているせいだろう、カバンは朝より少しだけ軽くなっている気がする。

 申し訳なさそうに目を伏せる伊地知さんに、わたしは明るい声で話しかけた。

「前にも言ったじゃないですか。凡人には凡人なりのやり方があるって」
「……え?」
「凡人だからこそ、数多の天才たちが目もくれなかった可能性に価値を見出すことができるんです。それが無価値だなんて、凡人のわたしには見ただけじゃわからないから」

 時代が加速していく中で、呪術の天才たちが捨てた可能性。

 一見無価値に思えるものでも、少し視点を変えるだけできっと価値は生まれる。“無科”がそうであるように。上層部や御三家にとっては無価値でも、棘くんや五条先生たちにとってはそうではない。

 だから。

「使えるものはすべて使う。それがわたしの呪術です」