決意 -後-

「高菜」
「ちょっとだけ」
「しゃけ」

 扇風機の電源を入れた棘くんがローテーブルの向かいに座る。早朝ということもあって、部屋はまだクーラーに頼るほどの室温ではなかった。麦茶を一口飲んだ棘くんがグラスを置く。氷がぶつかる音を聞きながら、わたしは静かに口火を切った。

「呪いが見えるようになれば、一人前の呪術師になれば、少しくらい認めてもらえると思ってた。でも……」
「おかかっ」
「うん、わたしもそう思う。説得は無駄。わたしが“無科”である限り」

 わたしはにっこりと笑った。

「わたし、大学へ行くよ」

 マスクのヒモを耳にかけていた棘くんが、不思議そうに首をかしげた。知ってるけど、と言いたげな顔で。

「ツナ」
「働き続けるためじゃなくて、呪術界に対して影響力を持つため」
「いくら」
「呪術高専が独立した行政機関とはいえ、日本の中央と繋がっているのは間違いない。だから中から攻めるんじゃなくて、外から攻めようと思うんだ。学歴と実力と人脈で」

 思いもよらない突飛な作戦に、棘くんは言葉を失ったようだった。

 わたしの出自でこれ以上の出世なんて見込めない。でも、上のやり方に口をはさむだけの権力はほしい。となれば、規定側に口出しできる第三者のポストにおさまるしかない。

 大河ドラマで観た城攻めを思いだした。わたしたちが落とそうとしている城は強固なものの、攻め方は無数に存在していた。奇襲、水攻め、兵糧攻め。賄賂に調略、撹乱まで。わたしたったひとりを認めさせるためだけに行う大掛かりな城攻めだ、できることなら無血開城の道を探りたいものだけれど。

 その要になるであろう内通者は、数秒の思案ののち、

「すじこ」
「期待してます、未来の一級呪術師殿」
「明太子っ」
「だからもうちょっとうまく立ち回ってね。今朝みたいなことが続けば、さすがの棘くんだってトントン拍子の昇級もむずかしくなるよ?」
「……」
「棘くん?」
「…………」
「棘くん、返事は?」
「………………」
「棘くーん?」
「……しゃーけー」

 ついっと鼻先をそむけた棘くんが、どうでもよさそうに間延びした返事をする。おそらく上層部から気にさわるようなことをたくさん言われたのだろう。わたしには聞かせられないような罵詈雑言も含めて。

 嫌悪感丸出しの様子に苦笑しながら、わたしは話を続けた。

「ただこの作戦の問題はすごーく時間がかかること。他になにかできないかな?」

 腕を組んで考えこんでいた棘くんが、ひらめいたようにぱっと表情を変えた。

「こんぶ」
「あ、それはそうかも。日本中から“贄”を使った儀式がなくなれば、事実上“無科”の価値はなくなる。ってことは、晴れてわたしも一般人?」
「しゃけしゃけ」

 とはいえ。

「でもそれって完全に私用だよね。儀式が行われていた場所は例外なく呪いが棲みついてるから、厳重に管理されてる場合がほとんどだし、侵入するなら一発勝負の完全勝利が条件になる。相手がイザナミさんレベルの呪いだとして、棘くんだけで戦うのは荷が重いよ」
「……しゃけ」

 悟くらい強かったらよかったのに。か細い声がこぼれ落ちた。千年以上の長い時を生きてきたイザナミさんが毛嫌いするほどの呪術師になれる人間など、ほんの一握りだろう。五条悟の特異性を己に重ねてはならない。

 となれば、戦力を増やす方法はただひとつ。

「やっぱりわたしが強くなるしかない」
「おかか」
「うっ……呪いが見えないと、呪いに触れることもできないんだよね?」
「しゃけ。ツナ」
「ん?ちょっと不思議だなと思って」
「こんぶ」
「ほら、イヌマキくんの攻撃は当たるから。その理論で言うと、わたしって呪いが見えるはずでしょ?イヌマキくんは呼びだした呪霊だし、イザナミさんの呪力を介してるせいかな?」

 問いかけてみたものの、棘くんは曖昧な返事をするだけだった。わからないことが多いのだろうと思って、そのことについて深く考えるのはやめた。呪いが見えないことは気になるものの、今考えなければならないのは戦力の底上げ方法だった。

「棘くんは“悔しい!”とか“腹立つ!”とか、そういう負の感情をもっと大きな呪力に変えてるんでしょ?」
「しゃけしゃけ」
「わたし、呪力を捻出するって感覚がわからないからなあ……ちょっと待って。それって呪力を使いこなせないわたしからは常に微量の呪力が垂れ流され続けて、いつかは呪いが生まれるかもしれないってこと?!」
「しゃけ……」
「だれかを殺す可能性もあるよね?!」
「…………」
「うわ、最悪じゃん……」

 わたしはげんなりと肩を落とした。

「自分の負の感情は呪いにしたくないな。漏れた分をかき集めたらすっごい呪いになる自信あるよ。最近は特にそう。身体中で負の感情が渦巻いている……」
「高菜」
「あ、棘くんが愛してくれた分だけ幸せに変わるシステムらしいよ?」

 真面目くさった調子で即答すると、棘くんの気だるげな瞳がぐらっと揺れた。笑いを噛み殺しながら、ローテーブルの下で折った足を伸ばして、棘くんのひざを親指でつうっとなぞってみる。いつものいたずら心で。

 しかし即座に足首をつかまれて、棘くんに勢いよく引っぱられてしまう。身体のバランスを崩したわたしは、咄嗟にひじで上体を支えた。両ひじに軽い痛みが走る。目の高さが一気に落ちても、身体はなお前方へと滑る。棘くんのほうへ引き寄せられる。衝撃でグラスが揺れる音がした。

 ローテーブルとフローリングのすき間から、冷めた目をした棘くんが見えた。蛇の目がわたしを見下ろしている。マスクがすでに剥ぎ取られている緊急事態に、反射的に身を強張らせる。調子に乗りすぎたかもしれない。

 焦りで微動だにできないわたしの足を持ちあげると、棘くんはわたしと視線をからめたまま、その裸足の甲に口付けを落とした。わざとらしいリップ音まで添えて。まるで見せつけるみたいに。

「ツナマヨ」
「……はい、変わりました」
「いくら」
「……はい、もう二度としません」

 解放されたわたしはカラカラに乾いた口の中を麦茶で潤したあと、何事もなかったように話を戻した。

「でもさ、本当にできないのかな。あふれた負の感情を、呪力として再利用すること」

 棘くんが宙を指すように、ピンと立てた人差し指をくるくると回してみせる。

「こんぶ」
「そう、負の感情は人のいるところなら簡単に手に入る。メリットはそれだけじゃないよ」
「ツナ」
「負の感情が呪いになること、それ自体を食い止められるんだ。呪いのために苦しむ人がいなくなるし、なにより呪いに殺されてしまう人がいなくなる。だれかの大事な人が理不尽に失われてしまう可能性もゼロに近づく。いいことづくめでしょ?」
「しゃけしゃけ」

 わたしの呪力の供給源を、イザナミさんから大多数の人間に変える。人間からあふれる負の感情を、呪いになってしまう前にわたしが使う。不可能にも思えることが実現できれば、上層部だって少しはわたしを認めてくれるかもしれない。

「問題はその方法だよ。どうやってあふれた負の感情とわたしを繋ぐか」
「こんぶ……」
「負の感情――微量な呪力って見えないんだよね?見えないものをどうやって集めればいいんだろう……見えるようになった時点で呪いになってるし、一ヵ所に集まった時点で呪いに変わるし……」

 ぶつぶつと呟いていると、急に棘くんが目を瞠った。

「……おかか」
「えっ」
「おかかっ!」

 その言葉にぶわっと鳥肌が立つ。まるで雷にでも打たれたような気分だった。間髪入れずにわたしは叫んだ。

「そっか!幽霊!」
「しゃけ!」
「残留思念は負の感情!」
「しゃけしゃけ!」
「棘くん天才!最高!大好き!愛してる!」
「ツナマヨッ!」

 その場で小気味のいいハイタッチをかわす。あばら骨の内側がふわふわしていた。棘くんたちとは見ている世界がずれている――それが役に立つかもしれないことが、すごくうれしくて。

 とはいえ、ぬか喜びで終わる可能性のほうがずっと大きかった。浮かれた空気を落ち着かせるように、わたしは事実を口にする。

「ただ仮にうまく呪力に変えられたとしても、蠅頭にもならないほどの微々たるものだと思う」
「すじこ!」
「常に人が亡くなった場所や墓地で戦えるわけじゃないよ?」
「こんぶ!」
「わたしには呪力コントロールができない。蓄えておくことはまず不可能」
「お、おかか……」
「……ふっふっふっ」

 頭を抱えた棘くんに向かって、もったいぶるようにわたしはニヤリと笑ってみせる。

「ちょっと考えがあるんだ」
「おかか」
「内緒」
「おかかっ」
「大丈夫、ひとりじゃないよ。人を頼るから」
「いくら」
「力になってくれそうな人がいるんだよね。京都に」

 連絡先は知らないものの、わたしには頼りになる伝手がある。着信拒否やブロックをされていなければの話だけれど。

「ツナ」
「えっ、ヒント?うーん……棘くんと等級が一緒」

 おおよその検討がついたのか、棘くんが苦虫を噛み潰したような顔をする。わたしをよく思っていない人間のひとりを頼ろうとしているのだから、きっと無理もないだろう。

 やんわりと反対される前に、わたしは話をまとめた。

「わたしがこれからやることは、大きくみっつ。ひとつめ、新しい戦い方の模索。それは体力作りも含めてね。ご指導のほどよろしくお願いします」
「しゃけ」
「ふたつめ、受験勉強。夏期講習頑張ります」
「明太子」
「みっつめ、“窓”の活動。これは幽霊探しと人脈作りのためでもあるけれど、一番は困っている人の力になりたいから。棘くんも手伝ってくれると助かります」
「おかかっ」

 棘くんが砥粉色の頭を左右に振った。声色には怒りがにじんでいる。どうやら“手伝う”という言葉がお気に召さなかったらしい。

「おーかーかー」
「……うん、ごめんなさい。わたしの言い方が悪かったです。ふたりで一緒に困ってる人を助けよっか?」
「しゃけっ」

 朗らかな笑顔とともに肯定の単語が耳朶を打つ。身体中にうわんと広がるその響きが、春の陽だまりみたいな、優しくてあたたかい気持ちを際限なく引っぱりだしてくる。

 だらしなく頬がゆるみそうになったそのとき、

「おかか」
「……えっ、その前?……その前ってなに?」
「す、じ、こっ!」

 打って変わって鬼の形相になった棘くんが、ぴしゃりとわたしを叱りつけた。



* * *




 医務室には目に刺さるほど清潔な光が降りそそいでいた。

 消毒液の匂いが充満するその場所が、わたしはとても好きだった。ふつうの学校の医務室には並んでいないものが所狭しと列を連ねているから。

 病院で見るような呼吸器や血圧測定器や点滴器。薬品棚に並んだ薬瓶のラベルには聞いたこともないカタカナばかりが印字されているし、その隣の本棚には医学書がびっしりと詰めこまれている。日本語の背表紙もあれば、英語やドイツ語だってあった。

 きっと居心地が悪くて、殺菌用の白いタイルに目を落とすことしかできない人もいるだろう。でも、わたしはそうではなかった。だってここには、わたしの知らない世界がたくさんあるから。

 好奇心を満たすようにきょろきょろしていると、「口を開けて」と家入先生がわたしを促した。白い手におさまるペンライトに目を移動させつつ、素直に従う。のどの奥まで覗きこまれて、なんだかすべてを見られているみたいな、ちょっと変な気持ちになった。

 悪夢を見続けているのはどう考えても正常ではないから、今すぐ硝子に診てもらって――棘くんはしかめっ面でそう言った。どうせストレスのせいだということはわかっている。医務室は好きだけれど、そのストレスの原因を突きとめられるのは嫌だった。心の弱さを指摘される気がして、怖かったから。

 わたしが渋ると、棘くんは「おかか」と底冷えするような一言を放った。あっそう。あまりの冷たさに耐えかねたわたしは、脱兎の勢いで医務室に飛びこんだのだった。

 家入先生の検診が一通り終わったとき、医務室に五条先生がやってきた。近くにあった灰色の丸椅子に腰を落とすなり、わたしの顔をじっと見つめた。顔になにか付いているのだろうか。家入先生にのどを見られたときよりも、うんと気持ちが悪い。

「勝手に入るな。診察中だぞ」
「知ってるよ、だから来たんだ。の寝不足がちょっと気になってね。それで原因は?」

 わたしのプライバシーはないのかと思いつつ、どうせ言っても無駄なので家入先生に視線を移した。

「過度なストレス。見当たる所見はそれくらいだな」
「……ふうん。“幽霊”を見ている原因は?」
「イザナミとの視覚を共有しているせいだろう。呪力の繋がりが眼球だけ異様に濃い」
「そっか」
「なにか不満でもあるのか?」
「……いや、硝子が言うならそうなんだろう。あんまり無理しちゃダメだよ?」

 五条先生に軽薄な笑みを向けられて、わたしは小さくうなずいた。胡乱な表情が張りついた端正な顔に焦点をピタリと合わせる。黒い目隠しに覆われた青色の瞳を見透かすように。

「どうかした?」
「術式は生まれながらに刻まれているもの、ですよね?それっていったいどこに刻まれているんでしょうか。たとえば今ここでわたしと五条先生の心臓を取り替えたら、脳を取り替えたら、血液を取り替えたら――わたしが使える術式って、どっちのものなんでしょうね」
「……え?」

 大人ふたりが虚を突かれたような顔をした。わたしは手元に目を落として、ずっと考えていたことを声に乗せた。

「わたしが“忌み血”だって言われているのは、この身体に流れている血液のせいですよね?」
「……うん、まあそんな感じだね。特には“無科”の血が濃い。あのイザナミが固執するくらいにはね」
「それって骨髄移植でどうにかなりませんか?」

 考えを整理しながら、ぽつぽつと続ける。

「骨髄を、造血幹細胞を移植すれば、わたしに流れる血液は“無科”のものではなくなりますよね?虎杖くんが宿儺さんを取りこんで呪力を得たように、器を変えなくても中身の価値は変えられるんじゃないですか?たとえば五条先生の骨髄を移植してもらえるなら、わたしも五条先生と同じ術式を使えるようになる――みたいな。“無科”の血から“御三家”の血へ」


 言葉をさえぎった声はひどく冷たかった。はっと頭をあげると、家入先生は怒りが混ざったような険しい表情をしていた。表情のとぼしい家入先生のそんな顔を見るのは、はじめてのことだった。

「調べたんだな?」
「……はい」

 説明しなければならないと思った。正しく理解してもらうために。

「外から攻めるには時間がかかるし、儀式を終わらせるには何度も棘くんを命の危険に晒してしまう……世界を変えるより、わたしひとりを変えるほうが圧倒的にリスクが少ないんです。だから骨髄移植が一番手っ取り早い方法だと思って……」
「いいよ」

 黙って話を聞いていた五条先生が、そこでようやく口を開いた。

が望むなら僕の骨髄をあげるよ。僕とは必ず適合する。イザナミがの願いを叶えないわけないからね。もちろんリスクはあるけど、硝子ならうまくやってくれるだろ?」

 呆れたように長いため息を吐いた家入先生が、わたしを正面から見据える。その顔はいつもの感情を欠いたそれへと戻っていた。

「ずっと信じられなかった。こんなお人好しが呪詛師向きだなんて、って」
「ひどいな。僕が今までウソをついたことあった?」

 五条先生の白々しい問いかけにはなにも答えず、わたしに焦点を合わせたまま感情のない唇を割った。

、残念だがそれはできない」
「え……」
「禁忌だよ」

 そう言いながら立ちあがると、わたしの頭にぽんと手のひらを置いた。まるで慰めるみたいに。

「今の言葉は胸に閉まっておけ。私も聞かなかったことにしてやる」
「……どうしてですか」
「理論上は可能だよ。お前と同じ考えの人間が今までいなかったわけじゃない。実際水面下で研究が進められていたことだってあった。だが公になった途端に研究資料は剥奪され、関わった人間はドナーも含めて一人残らず消されたよ。それ以来、呪術師間での骨髄移植はタブーになった」
「表向きは現代医学――ひいては科学を“邪”とする判断をお偉方が下したから。呪術師は呪術を使いましょうってつまんない考えだよ。でもね、本当はそうじゃない。なら理由がわかるよね?」

 しばらく思案を巡らせたわたしは、答えを待つふたりに目を送った。

「……血の価値が崩れるから?」

 五条先生が大きな拍手をして、家入先生は口元に小さな笑みを浮かべる。

「うんうん!やっぱりは頭がいいよね!そう、その通り!」

 褒められた高揚感がわたしの口から言葉を押しだした。

「はじめは骨髄を高値で取引きできたとしても――」
「うん、きっと百年後には御三家の血に値はつかなくなる」
「移植を禁止すれば血の希少性は保たれる。優秀な呪術師一族というブランドは永遠に価値を持ち続ける。ここは己の優位性を示すことが生き甲斐という人間ばかりだからな」
「そうそう、腐った魔物の巣窟だよ」

 わたしが再び目を伏せると、五条先生が芯の通った声音で告げた。

「だから僕はこのクソみたいな呪術界をリセットする。僕に並ぶほどの強く聡い仲間――つまり、悠仁や憂太、たちと一緒にね」

 自分の名前が聞こえた瞬間、びくりと肩が跳ねた。五条先生はイスごとわたしに近づくと、ひょいっと顔を覗きこんでくる。

「勘違いしないで。僕も硝子もを否定してるわけじゃない。の目の付け所は決して悪くないよ。時が止まったようなここでは革新的ですごく面白いと僕は思う。まあ思考回路や倫理観は呪詛師向きというか、ちょっと危ういなってヒヤヒヤするときもあるけどさ」
「……はい」
「だからね、のやり方で呪術師をやればいいんだよ」
「でも」
「僕たちに囚われなくていい。ここの常識を黙って受け入れるなんて“らしく”ない。の呪術はもっと自由でいいんだ。危ないなって思ったら、今みたいに僕たち大人がちゃんと止めるから。前例がないことにも臆さないのが、のいいところなんだぜ?」

 いたずらっぽいその言葉に背中を押されたわたしは、ぼそっと切りだした。

「……今、試してみたいことがあって」
「ん?なになに?」
「わたしはイザナミさんがいなければ領域も使えないし、真希ちゃんや虎杖くんのように身体能力が高いわけでもない凡人です。この一月ずっと考えていました。イザナミさんに頼らずに使える呪術がないか。呪力が少なくても呪霊と戦う方法はないか。だから――」

 棘くんには自慢げに言ったものの、本当は自信なんてどこにもない。蚊の鳴くような声で告げた“ある考え”を聞いた途端、五条先生は手を叩いて笑いだした。

「いいね!はそうでなくっちゃ!いや、にはこう言うべきかな?――実に面白い」

 わざとらしい艶やかな低い声をだしながら眼鏡を押さえるような仕草をすると、五条先生は挑発的で挑戦的な笑みを浮かべる。

「だったら僕に証明してみせてよ。科学が呪術を凌駕するかをさ」


第2章 了