東京観光
澄み渡る四月の空には、白い雲が点々と浮かんでいた。
呪術高専に足を踏み入れてかれこれ二週間が経過していたが、未だにこれという情報は掴めていなかった。しかし、希望はあった。わたしが手を付けているのは、資料室に置かれた無数の蔵書だけだった。それらを全て調べ尽くしたわけではないし、自らの足で各地を調べ歩いたわけでもない。呪術師に訊いて回ることもしていない。全ての可能性が潰えるまでには、まだまだ相当な時間を要しそうだった。
少しずつではあるものの、わたしは呪術高専という場所に馴染みつつあった。何かと気にかけてくれる狗巻くん達のおかげだった。高専に出入りする呪術師には訝しげな視線を寄越されるが、それにもずいぶん慣れてきていた。
呪術高専で迎えた二度目の日曜日は、東京観光のために使おうと決めていた。
一度目は乙骨くんに借りた呪術師の入門書――呪術の成り立ちや呪いの性質、呪術師の役割等を易しい言葉と図で説明した初心者のための書籍――を読み耽って、一歩も外には出なかった。
そろそろ息抜きがしたかった。そう簡単に人間に戻れないことはわかっていたから。
焦ったり根を詰めたりしたところで、結果が付いてくるわけでもなさそうだ。ならば軽く気分転換でもしようと思った。単に大都会東京を見て回ってみたかったというのが本音だが。
真希ちゃんに通販で取り寄せてもらった観光情報誌を抱えて、わたしは朝早くに女子寮を出た。
偶然、男子寮の扉の前にパンダくんを見つけた。同じように気づいたパンダくんが、先に声をかけてくれた。
「あれ、
。どっか行くのか?」
「うん。東京を観光しようと思って」
わたしが答えると、パンダくんが首をひねった。
「一人で?」
「そうだよ」
「誰も誘わなかったのか?」
「そうだけど……駄目だった?」
呪いであるわたしは一般人に認識されない。だから誰かを誘うのは躊躇した。虚空に向かって喋り続ける姿を揶揄されるのは、さすがに可哀想だと思ったから。
訊き返されたパンダくんは渋い顔をした。ふわふわの手を左右に振った。
「駄目じゃないけど……女の子が一人で歩き回るなんて危ないだろ。慣れてもいないしさ」
「誰にも見えないのに?」
「それは……まあ、そうなんだけどな」
どこか歯切れの悪いパンダくんに、わたしはにっこりと笑いかけた。
「大丈夫だよ。じゃあ、行ってくるね」
「ちょっ、ちょっと待った!」
パンダくんがわたしの行く手を阻むように駆け込んできて、ピタッと足を止めた。そわそわと落ち着かない様子で尋ねてきた。
「観光ってどこへ行くんだ?」
「今日はスカイツリーを見に行こうかなって」
「中には入らないのか?天望デッキとか」
「わたし、多分チケットが買えないんだよね……だから、外からたくさん見て、中にはちょっと入るだけにするつもり」
他の客にこっそり紛れて天望デッキや天望回廊を見て回る手もないわけではないが、視認されないことを利用するのは狡いだろうと思った。何よりれっきとした犯罪行為である。捕まることはないだろうが、きっとわたし自身が許せないだろう。
電車代は五条先生がICカード乗車券を購入してくれたからいいものの、チケット購入となると話は別だった。日時指定券を買うことも考えたが、どうしたってわたし一人では購入が難しい。わたしの娯楽のために誰かの時間を費やさせるのは、何となく嫌だった。
「せっかく行くのに、勿体ない」
パンダくんはそう言ったけれど、わたしは笑ってかぶりを振った。
「いいの。人間に戻ったときの楽しみとして置いておくから」
この体で楽しみ尽くしてしまうのは違うと思った。とことん満喫するなら人間に戻った後が良かった。
パンダくんは「そうだな」と言うと口を閉じた。会話の終わりを感じ取ったわたしが先に進もうとすると、ぬっとパンダくんが立ち塞がった。体を移動させて通り抜けようとすれば、パンダくんも合わせて体をスライドさせた。何故。
何度かフェイントを織り交ぜてみたものの、パンダくんはその巨体からは想像もできないような俊敏な動きで、わたしの行く手をことごとく塞いだ。
最初はちょっと楽しかったし、笑う余裕だってあった。しかし回数を重ねていくうちに顔の表情筋は動かなくなって、苛立ちがふつふつと湧き始めた。どうして邪魔をされなければいけないのか、よくわからなかったから。
地味な嫌がらせ行為に文句を言おうとした瞬間、パンダくんの顔に満面の笑みが浮かんだ。
「棘!」
わたしが振り返った先には、私服の狗巻くんがいた。ただその口元はいつものようにすっぽりと覆われていた。制服ではなく、黒いネックウォーマーで。
涼しそうな装いの狗巻くんが、こちらに駆けてきた。わたしは小さく首を傾げた。
「パンダくんと約束してたの?」
「しゃけ」
「いいね。楽しそう」
わたしが笑うと、狗巻くんは視線を宙に彷徨わせて、それから意を決したように言った。
「……こんぶ」
「わたしも?」
「しゃけしゃけ」
「今日はスカイツリーを見に行くんだ。誘ってくれたのにごめんね」
彼の目に寂しそうな色が浮かんだ。途端に罪悪感が肋骨の中で芽吹いたのがわかって、わたしは心の中で何度も謝罪した。
一緒に過ごしたくないわけがないけれど、資料室で牽制した以上は勘付かれたくなかった。気のない素振りを続けようと決めて、はや数日。今のところ上手く隠し通せていると思う。
とはいえ己の感情に嘘を吐くのは下手だし、狗巻くんは察しが良いほうだからすでに嗅ぎ取られているような気もするが。
狗巻くんは少しだけ目を伏せた後、ぼそぼそと言った。
「すじこ」
「えっと……わたし一人だけど、どうして?」
「おかか!」
間断なく尖った言葉が飛んできて、わたしはちょっとびっくりしてしまった。狗巻くんはわたしを軽く睨んでいた。納得できない様子で続けた。
「ツナマヨ」
「そんなこと言ったっけ?」
東京に向かう新幹線での会話を、狗巻くんは覚えていたようだった。
嬉しかった。一緒に行こうと言いたかった。しかし言葉にはできなかった。呪いであるわたしとの行動は不自由だろうと思ったから。迷惑をかけたくないのは事実だった。それに、今日はパンダくんとの先約もあるだろう。
すっ呆けたわたしに、しかめっ面の狗巻くんが文句を連ねた。
「しゃけ。こんぶ。ツナ」
「でも、それは狗巻くんが暇で暇で仕方なかったらって話で」
「あーっ!俺、真希に呼ばれてたの思い出した!」
パンダくんが大声で遮った。わたしと狗巻くんは目を見開いて、彼に視線を送った。パンダくんはひどく残念そうに頭を振ると、狗巻くんの肩に手を置いた。同情を欲するような大袈裟な態度だった。
「ごめんな、棘。暇で暇で死にそうだから、訓練でもしようかって話だったのに」
「……お、おかかっ」
「これじゃ棘は暇で暇で死にそうなままだな。いやあ、どうしたもんかな」
そう言いながら、パンダくんがちらっとわたしを見た。言いたいことはわかるだろうと視線で脅される。狗巻くんには気づかれないよう、こっそりと。
呆れて肩をすぼめた。わたしを足止めしていたのは、最初からそういう目的だったのだろう。初めから言ってくれればよかったのにと思いつつ、素知らぬふりを貫いた。
パンダくんが両手を擦り合わせて、申し訳なさそうに言った。
「本当にすまん!この埋め合わせは今度必ず!」
「しゃ、しゃけ!」
狼狽した狗巻くんが頷くより早く、パンダくんはにこやかに笑いながら走り去ってしまった。
わたしの退路は完全に断たれていたが、不満はそれほど湧いてこなかった。むしろ少し喜んでいた。パンダくんのお膳立てに感謝していた。迷惑になるだろうという危惧よりも、狗巻くんとともに観光ができる喜びのほうがずっと大きかった。
皮膚の下に感情を押し込めて、わたしは狗巻くんと顔を見合わせた。彼の視線は気まずそうに泳いでいたが気にも留めず、ごく自然な素振りで訊いた。
「暇で暇で仕方ない?」
「しゃけ」
観光情報誌を自分の顔の前に掲げて、目から上だけをちらりと覗かせた。まっすぐにお願いするのは、何だか照れ臭くて。
「じゃあ、ちょっとだけ付き合ってくれる?」
電車から降りるタイミングを逃して、狗巻くんとはぐれてしまった。
一般人から視認されないせいだった。一瞬のうちに下車を急ぐ人達に容赦なく押され、揉みくちゃにされ、わたしは押し潰されてしまうのではないかと怖くなった。だから咄嗟に手すりに掴まってしまったのだが、それがいけなかった。
気づけば電車の扉は閉まっていて、扉の外でポカンと口を開けている狗巻くんと目が合った。電車はゆっくりと走り出し、わたしは慌ててスマホにメッセージを打ち込んだ。
――戻るから待ってて。
既読が付いたことを確認して、浅草駅で次の電車を待った。
手でも繋いでおけばよかったと考えた後に、ぼっと体が熱くなるのを感じた。狗巻くんとはこの短期間で何度も手を繋いでいるというのに、何を今さら恥ずかしがっているのだろう。
顔を伏せて熱を冷ましながら、手を繋ぐための算段をしておいた。
はぐれないためだと理由を付ければ、間違いなく繋いでくれるだろう。言葉でお願いするより、先に手を繋いでしまったほうがいいだろうか。とても自然な感じで。そのほうがお互い変な意識をせずに済むのではないか。
考えあぐねていたとき、ふいに声をかけられた。
「この世に未練のあるお嬢さんかな?」
はっとして顔を上げた。わたしの目の前に、黒いパーカー姿の男がいた。
聞き間違いかと疑ったが、その細い目は確かにわたしの視線と絡んでいた。
わたしはまじまじと男を見つめた。黒ずくめの背の高い男だった。男の額に走る横一線の縫い目は手術痕のように見えた。くっきり残った痕は痛々しかったが、同情はしなかった。男の纏う胡散臭さのせいだった。情を移してはならないような気がした。
胡散臭さの拭えない男に既視感を抱いた。五条先生と似ているかもしれない――そう思った。
「可愛いお嬢さんがこんなところに一人とはね」
と言いながら、男は穏やかに笑った。呪術師だろうか。よくわからなかったが、こちらに害を加えようという思惑は感じ取れない。わたしは笑みを返して答えた。
「東京の観光をしたくて」
「それはいい。東京には若い女の子が喜びそうな場所が多いからね。竹下通りのクレープ屋とか」
付け足された単語にわたしの声が跳ねた。
「クレープ!甘い物、大好きなんです!」
「私には少々甘すぎたが、甘い物が好きなら口に合うかもしれない」
「また今度行ってみます。他におすすめの場所、どこかありますか?」
わたしが尋ねると、男は柔和に口角を上げた。嫌な予感がして、思わず眉をひそめた。些細な表情の変化から、明確な悪意を感じ取っていた。芽吹いた警戒心を抱いたまま、男と目を合わせ続けた。何が起こっても対応できるように。
「いい場所がある。案内しよう」
「場所だけ教えてくれませんか?」
「せっかくだろう?」
「あなたよりずっと素敵な人と行きますから」
「それは残念だ」
男は残念そうに肩を落とした。それから考え込むように顎に手を当てる。
「ここ浅草はどうだろう?買い食いにはちょうどいいところだよ」
素振りのわりに、出てきた言葉は適当なものだった。真面目に答える気はないのだろう。電車がホームにやってくるアナウンスが聞こえる。わたしの心は急いていた。一刻も早くこの男から離れたかった。何となく気味が悪くて。
わたしの焦燥を見抜いたのか、男がますます笑みを深くした。
「変わったモノを連れているようだね。使い方は知らないのかな?」
「使い方?」
「そう。それは世界を変える力だ。私の下で正しく使いこなしてみないか?」
恭しく手を差し伸べられたが、どう考えても怪しい勧誘だった。わたしは一歩下がって、首を横に振った。男を真正面から睨みつける。
「イザナミさんはわたしだけの“神様”です。そばにいてくれるだけでいい」
本音を言えば体を返してほしいのだが、この男に告げる必要はないと思った。男はわたしの足元に目を落とすと、小さく肩をすくめただけだった。
電車がやってきて、わたしは足早に男の横を通り抜けた。男はわたしを引き留めなかった。手すりに掴まって振り向けば、男は人差し指を己の唇に当てていた。
「また会おう、
。私に会ったことは、くれぐれもあの呪言師には内密に」
扉が閉まると、男の姿は瞬く間に消えた。もとよりそこには何もなかったかのように。
人の少ない場所に移動しながら、危ない人だったなと他人事のように思った。わたしの名前も狗巻くんのことも知っているとなれば、危険人物と認識して問題ないだろう。
五条先生の耳に入れておくことも一瞬考えたが、やめておいた。あの口振りから予想するに、おそらく狗巻くんと二人のときには接触してこないはずだ。単独行動さえ控えていれば、きっと遭遇することはないだろう。
その後、わたしは狗巻くんと無事に合流することができた。狗巻くんの顔を見た瞬間、ほっとして気が抜けた。張り詰めていた緊張の糸が解けていく感じがして、少し怖かったんだなとちょっと笑ってしまった。
何かあったように映ったのだろう、彼は不安そうに問いかけてきた。
「高菜」
「新手のナンパに遭遇したくらいだよ。ナンパっていうより、新興宗教の勧誘かな。世界を変えませんか?って、よくある感じの」
「すじこ」
「断った。狗巻くんとのデートのほうが楽しいし」
演技をする余裕なんてもう残っていなかったし、気づかれたならそれでいいとすらと思っていた。今は狗巻くんとの時間を楽しむことで、向けられた悪意を早く忘れたかった。
わたしは狗巻くんの手を掠め取ると、指を深く絡めて歩き出した。突然の恋人繋ぎに目を白黒させている彼に笑いかけながら。
「行こう!その後は浅草で美味しいものをいっぱい食べたい!」
帰りの電車に乗る頃には、すっかり夜は更けていた。
この電車を逃せば門限に間に合わなくなると聞いたときはさすがに焦ったが、狗巻くんに手を引いてもらいながら全速力で駅構内を駆け抜けて、何とか電車に乗り込むことができた。老人達に追い回されたときのことを思い出して、ちょっと感慨深かった。
電車に乗っている人はまばらで、わたしたちは広い座席に並んで座っていた。
わたしたちの手は重なって、深く繋がれたままだった。手のひらの上で互いの熱が混ざり合っていて、もうどちらのものかわからなかった。
骨張った指は最初こそ躊躇いがちに絡まっていたが、時間の経過に従って迷いが晴れたようにわたしの指にきつく絡みついた。深く交わったままの手に目を落とすと、胸の辺りが少しくすぐったくなった。
向かいの窓に視線を移した。闇の中に光がいくつも見えた。どこか寂しい夜の香りがする。少しずつ暮夜が近づいていた。ずいぶんと遅くまで遊んでしまったなと思いながら、狗巻くんに話しかけた。
「楽しかったね」
「しゃけ」
「お腹いっぱいになったね」
「しゃけ」
「また付き合ってくれる?」
尋ねると、狗巻くんが頷いた。それから、目元に穏やかな笑みを作った。
「ツナマヨ」
人間に戻ったらまた来よう――彼はそう言っていた。結局、スカイツリーの天望デッキには登らなかったのだ。狗巻くんは行こうと誘ってくれたが、わたしが断った。楽しみは置いておきたかったから。
わたしは何も答えられなかった。曖昧に笑ってみせると、狗巻くんの瞳がたちまち翳った。手を握る力が強くなって、彼は静かに目を伏せた。
人間に戻れたら、呪術高専を辞めて元の生活に戻るつもりだ。五条先生とはそういう話をしているし、元々“呪い”が見えない以上そうするほうがいいと言われている。
地元に戻れば、高校を卒業するまで東京には来られないだろう。新幹線代はどこにもないし、勉強に明け暮れる毎日が待っているのだから。仮に東京の大学に進学できたとしても、その頃まで狗巻くんとの関係が続いているかどうかもわからない。
不確かな約束はしたくなかった。けれど、その不確かさを求めている自分がいた。狗巻くんと天望デッキに向かう自らの姿を、おいそれと頭から捨て去ることはできなかった。
わたしは腰を軽く上げて、狗巻くんとの距離を詰めた。互いの隙間を埋めるように。太ももの側面がピッタリとくっ付いて、そこから熱が生まれた。ひどく熱かった。脈打つ鼓動が少しだけ速くなったような気がした。
剥き出しだった。きっと寂しい夜のせいだった。それがわたしから全てを剥いで、狗巻くんの目の前にさらしていた。わたしの弱さも本音も全部。隠したくなかった。確かなものを得るために。それが狗巻くんに対する誠実さだと、信じて疑わなかった。
絡まったままの手に力を込めた。少しでも想いを返したくて。
「好きになる相手を選ぶなんて、本気じゃないよね」
わたしの声に反応するように、狗巻くんはそっと顔を上げた。揺れ動く気だるい瞳をまっすぐ見つめた。むず痒さを伴った甘い疼きが、体の芯を震わせていた。
わたしは小さく笑った。諸手を挙げて、観念するように。
「どうしよう。もう本気かも」
ゆっくりと上下する目蓋の動きを凝視する。まるで何かを確認しているようだった。浮かぶ感情の一片すらも見過ごすまいとする動きだった。
視線は逸らさなかった。そのまま心の奥深くまで見抜けばいいと思った。それはもはや祈りだった。わたしの心がもうあなたの手の中にあることを理解してほしい。ただそれだけを願った。
狗巻くんの見開かれた瞳に、少しずつ熱が集まっていく。彼は空いた手で黒いネックウォーマーを下げた。目玉のような刺青が露わになると、わたしの顔を覗き込んだ。彼も同じように、確かなものを見つけようとしていた。
唇が触れ合った。とても優しい感触だった。時間が止まったかのように感じるほどに。わたしたちだけが、世界から切り離されていく感覚がした。
狗巻くんの唇が離れる。至近距離で目の奥を覗き込まれていた。わたしが頭を引こうとすると、ついばむようなキスをもう一度された。彼の手をぎゅっと握りしめた。確かなものを感じ取りたくて。
けれども、まだ不確かだった。あやふやで曖昧だった。けれどこの繋がりに輪郭を持たせるには、決定的なものが足りなかった。奪われたままのそれを取り戻さねば、望むものは手に入らないと悟った。
わたしは顔を伏せて、狗巻くんの肩に頭をそうっと預けた。穏やかな熱が伝わってきて、とても心地よかった。
「ちょっとだけ寝てもいい?」
「……しゃけ」
「ありがとう。着いたら起こして」
ゆっくりと目蓋を閉じる。狗巻くんがわたしの頭に顔を寄せたのがわかった。優しい重みに頬を緩ませながら、わたしは眠りに落ちた。
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