カクリヨ番外編その参

「棘くんが“呪い”で、わたしが“呪術師”だったら?」

 が数学の参考書から顔を持ち上げると、カップアイスを食べる野薔薇が説明を加えた。

「狗巻先輩、さんが呪いでも好きだって気持ちを貫き通したって聞いて。逆だったらどうだったのかな~って」

 照れ臭いやら自慢したいやら放っておいてほしいやら、何だかひどく複雑な気持ちを持て余すように、棘はおそるおそるへ視線を投げた。様子を窺う棘を軽く一瞥したは、すぐに野薔薇を真正面から見つめる。

「当然、一も二もなく祓うよ」
「祓う?」
「うん、祓う。絶対躊躇わない」

 揺るぎないの答えに満足げな笑みを浮かべたのは、棘ただひとりだけだった。談話室に集った全員がを見つめていた。その回答に隠された真意を確かめるように。

「ただし、棘くんが元・人間なら話は別だけどね」とが付け足すと、さらに部屋はしんと静まり返る。

「棘くんがわたしへの気持ちを貫けたのは、わたしがもともと人間だったから。人間だったときのわたしを知っていたから。もしわたしが最初から呪いだったら、人間と同じ姿かたちをしていようと、心を持った人間のように言葉を巧みに操ろうと、棘くんはわたしを間違いなく祓ってたと思うよ」

 は小さく相槌を打つ棘を視界に入れて、「ね」と茶目っぽく笑んだ。

「呪いだって言ってもスタート地点がどこなのかで話は変わる。だって、人間と呪いに共存はない。確実に害をなす呪いとの共存を目指そうなんてお気楽な思考、人間は持ち得ないもんね」

 何か別の意味を含ませるようにゆっくりと言うと、薬指の根っこで円を描くピンクゴールドに柔らかな視線を這わせた。

「だから、わたし、とっても運が良かっただけなんだよ」

「おかか……」とかぶりを振りながら、棘はを指差す。“そういうところ……”と甘ったるい嘆息を吐く棘に、恵が「そうやって惚気るのやめてもらえます?」とうんざりした様子で肩をすくめた。

2021.04.25