最愛番外編その壱
「真希ー!パンダー!バスケしようぜ!」
「ツナマヨ!」
昼下がりの教室に勢いよく飛び込んできた
と棘から焦点を外すと、パンダはすぐ隣で頬杖をついていた真希に視線を投げた。
「磯野野球しようぜのノリで来たぞ。どうすんだ、真希」
真希はやや面倒臭そうな素振りで
に鼻先を向ける。
「それ四人でやんのか?」
「ううん、一年もやるよ。だから三対三で勝負しようぜ」
それから十五分後、体育館にも似た造りの訓練施設には二年生と一年生が集合していた。パンダと悠仁が作ったクジにより、三対三のチーム分けが決まった。
「チーム野薔薇対チーム運動神経だな」
審判のクジを引いたパンダが「こりゃ戦力に差がありすぎか?」と付け足す。野薔薇・
・恵のチーム、そして真希・棘・悠仁のチーム。近距離戦に強い後者の面々は勝利を確信したのか、
「この勝負、勝ったほうが負けたほうに焼き肉を驕るってのはどう?!」
「しゃけしゃけ!」
「いいな、それ」
と、何やら楽しげな会話を繰り広げている。一方“チーム野薔薇”はといえば。
「よりによって焼き肉かよ……
先輩、俺今月金欠なんでよろしくお願いします」
「あ、私も。新作コスメ買いすぎちゃって」
「ねぇなんで二人して俺に払わせようとするの?泣いていい?」
腕で顔を隠すようにして泣き真似をする
に、恵が呆れ返った響きを寄越した。
「運動神経オバケが三人揃ってる時点で負け確定でしょ。そもそも勝ち目ありますか?」
「ない。よし、もう一回クジ引きしよう。虎杖と組む確率を百パーセントにしたい」
「本気で勝つつもりじゃないですか。それ、俺も入れてください。タダで肉食いたいんで」
「なに言ってんのよ、伏黒。
先輩がいるじゃない」
ふたりの会話を聞いていた野薔薇が自慢げに胸を張って続ける。
「シュートインの確率はゼロにすればいいのよ!」
「いやさすがにそれは反則だろ」
「うん、伏黒の言う通りだね。どう考えてもスポーツマンシップに反するけど……」
困った様子で
は眉根を下げると、パンダに向かっておずおずと手を挙げてみせた。
「パンダ、俺の術式使ってもいい?ちょっとこっち不利でさ」
パンダが「どうする?」と“チーム運動神経”に問いかければ、真希の双眸が探るように
を射抜いた。「頼むよ」と
が弱々しく肩をすくめる。やがて三人は口を揃えて回数を指定した。
「一回だ」
「っスね。じゃあ一回だけ」
「しゃけしゃけ」
試合中に術式を使用できるのは一度だけ――事象の確率を操作する
の術式といえど、たった一度で不利な状況が変わるわけもない。野薔薇と恵の脳裏に敗北が過ぎった、そのとき。
「ふっ……考えの浅い者たちが相手で助かったよ。俺はずっとその言葉を待っていたんだからな」
口元を弦月の形に歪めた
が腕組みをしていた。しかも妙に演技がかった口調でくつくつと喉を鳴らして笑ってみせる。その様子はかの“最強”にそっくりだった。
「いつ誰が“試合中に術式を使いたい”と言った?」
「ツ、ツナマヨ?!」
「呆れたな。どうやら貴様らは俺が稀代のデュエリストだということを忘れているらしい」
「お、おかかっ!」
ひどく切迫した反応を返す棘から目を逸らすと、悠仁は恵にこっそりと尋ねた。
「えっ、
先輩って呪術師じゃねぇの?」
「呪術師だ。どうせいつもの茶番だから黙って見てろ」
冷め切った声音に悠仁は唇を横一文字に結ぶ。険しい表情を滲ませる棘は半歩前に進み出るや、
と真正面から対峙する。
「いくら、ツナマヨ、明太子……」
「前言撤回?……何を馬鹿なことを。すでに準備は整った。今さら足掻いたところでどうにもならんさ。己の無力さを地獄で後悔するがいい」
「こ、こんぶ……」
飽食した悪魔のような嗤笑を浮かべた
は、満を持したかのように高らかに声を張り上げた。
「俺のターン!俺の術式を墓地へ!手札から“五条悟”を攻撃表示で特殊召喚!」
その場にいる全員が
の言葉の意味を理解した瞬間、
「やっほー!みんなでなにやってんの?」
施設の扉が開き、“術師最強”を冠する男が暢気な響きとともに登場した。チーム運動神経の三人が同時に頭を抱えて悲痛に叫び、チーム野薔薇のふたりは希望を見出したかのように双眸を大きく瞠った。
「おかかおかかおかかーっ!」
「
テメェふざけんな!常識で考えろ!」
「そうだそうだ!五条先生は反則だろ!せめて守備表示にして!」
「俺、
先輩のそういうところだけは尊敬してます」
「これで勝ちは決まったわね!いくのよ五条悟っ!」
阿鼻叫喚の三人組を「いや
の一回を許したのは真希たちだからな……」と言って宥めるパンダの向こうで、五条だけが状況を把握できずポカンとしていた。胡散臭い笑顔を貼り付けて近づいてきた
に、困惑した声音で問いかける。
「待って待って、全然話についていけない」
「急にごめん。俺の術式で悟をここに呼び出したんだ」
「それはわかってるけど、理由は?」
事情をかいつまんで説明すると、五条は
とそっくりな笑みで深く頷いた。
「なるほどね。そういうことなら任せてよ。スタメンはどうする?」
「そうだな……釘崎、悟、俺で行こう。体力に不安の残る釘崎と伏黒を適宜入れ替えていく作戦で」
「それが最適解だろうね。さーてと、あの運動神経オバケたちをぎゃふんと言わせてやろうぜ兄弟」
「もちろん。たーっぷり痛い目見せてやろうぜ兄弟」
2020.7.11 お題箱より