03

 物言わぬ石になった気分だった。脳髄の支配下から外れたように、躯体はびくとも動かない。皮膚の下で溢れ返った感情が、行き場をなくして彷徨っている。

 心臓が凄まじい悲鳴を上げていた。著しい体温の上昇を自覚する。時の流れがやけに遅く感じた。浅い呼吸を繰り返すたび、感覚が鋭敏に尖っていく。脹相くんに与えられるもの全てを逃すまいと懸命に働く五感が、今はただ憎らしかった。

 早く逃げ出したくて仕方がないのに、暮夜を溶かした瞳に全てを奪われている。とうに退路など断たれていた。逃げられないことを理解して、甘い痺れを帯びた諦めの感情が滴り落ちる。

 頬を覆う手のひらに冷たさは感じられない。わたしの灼けるような熱が移ったせいで。

「目を閉じろ」

 相変わらず平坦で抑揚に乏しい声音を、このときだけは優しいと感じたのは何故だろう。

 脹相くんの顔がゆっくりと近づく。瞳と同じ色をした髪から雨水が伝って、蠱惑的な輪郭がくっきりと浮かび上がっている。眩暈がしそうだった。

 視界に薄暗い影が落ちたところで、やっとわたしの目蓋が動いた。

 きっと信じられなかったのだろう。情緒の欠片もなかったはずの瞳に、獣じみた欲の色が滲んでいることに気づいてしまったから。

 互いの微かな息遣いさえもはっきりと感じ取れたそのとき、

「おっかえりー!」

 場違いなほど明るい声音が、充満する静寂をあっという間に奪い去った。あまりの大音量に、扉の開く音は完全にかき消されている。

 動揺を覚えるより早く、わたしは飛び跳ねるように後退する。だが濡れたパンプスでは着地は思うようにいかず、ヒールがつるりとした廊下を滑った。次の瞬間には尻に鈍痛を感じて、思わず顔をしかめる。

 尻もちをついたわたしを見下ろす色違いの瞳には、子どものように無邪気な光が灯っていた。

「――って、邪魔しちゃった?」

 ぺろっと舌を出すと、真人くんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。そこにはおよそ悪びれたふうもない。

 氷塊にも似た冷たい光を含んだ視線が、継ぎ接ぎだらけの顔を一瞥する。

「わざとだろう」
「えー?そんなわけないじゃん」
「白々しい」

 吐き捨てながら真人くんの前を通りすぎると、脹相くんは前屈みになってわたしの左の二の腕を掴んだ。まともに顔を直視できるわけもなく、濡れた床に揺れる視線を落とす。

 込み上げる羞恥心に首を絞められている。燃えるように身体が熱い。掴まれた二の腕はすぐに焼け落ちてしまいそうだった。

「ひとりで立てるから」と囁くような必死の制止は聞き入れられず、縮こまった身体は脹相くんによって力任せに引き上げられてしまった。頭を深く垂らしたまま、笑う両膝を伸ばしてなんとか立ち上がる。

 明らかに状況を楽しんでいる真人くんが頭の後ろで手を組んだ。

「脹相、外はどうだった?」
「性に合わん」
「すぐに慣れるよ。そしたら案外面白く感じるかも」

 わたしよりずっと大きな手が離れても、そこには確かな体温が残されていた。呪物には決して持ち得ない温かさ。自ら熱を生み出しているということ。脹相くんが生きている確かな証。今、わたしの唇はきっと狼狽に歪んでいることだろう。

 真人くんは床に落ちたショルダーバッグを拾って、わたしの顔を覗き込みながらそれを手渡した。助けを求めるように視線を絡めると、小さな苦笑が返ってくる。

、先に脹相を風呂に入らせたら?着るものも適当に見繕ってやって」

 助け船以外の何物でもない提案に、赤べこのように無言で頭を上下させる。事務所に身体を滑り込ませようとすると、にべもない反論が耳を打った。

「俺は後でいい」
「駄目でーす!新入りの君が先に入ってくださーい!」
「後でいいと言っている」

 感情の欠けた声を聴くだけで、情けないほど心拍数が上昇していた。わたしは即座に逃亡を図ると、玄関を抜けて広い執務スペースに駆け込んだ。

「おかえり、。私に言うことは?」

 一人用のソファに深く腰掛けていたのは、傑くんだった。外出用の黒い洋装からラフな普段着へと、装いを一変させている。読みかけの分厚い文庫を閉じながら、口端に柔和な笑みを刻む。

「楽しんできたんだろう?脹相との念願のデ――」
「デートじゃない!」

 揶揄する言葉を横取りして強く否定する。言いたいことは山ほどあったが、今のわたしにはそれが精一杯だった。「おやおや」と楽しそうに響く声音を無視して、事務所の個室スペースの前で立ち止まる。

 その扉には細長い呪符が幾重にも貼り巡らされていた。事務所らしい無機質な面影はどこにも見当たらない。

 貼り重ねられた白い半紙に墨で描かれているのは梵語だけでなかった。五芒星を始めとした呪印や不可思議な模様を書写した霊符など、その宗派に一貫性はない。

 見た者に否応なく異様な印象を与えるのだろう。初めて目にした傑くんは「もうちょっとどうにかならないの?」と苦い顔をしていたし、水回りの改修工事に訪れた業者は一様に青ざめていた。

 呪符だらけの扉の脇には金属製のフックが取り付けられており、そこには梵語が彫刻された木の板がぶら下がっている。自宅に繋がっていることを確認すると、そのまま扉を外側に開いた。

 その向こう側は事務所の狭い個室ではなかった。数寄屋造りを用いた、別に広くもない平屋の廊下だった。真正面には真四角の格子窓があり、映る深山の緑が空間に彩りを添えている。

 現代最強の呪術師である五条悟は鼻歌まじりで瞬間移動ができるが、わたしのこれも似たようなものだった。自力でやってのける悟くんの足元には遠く及ばないものの、大量の呪符と特級呪具を併用し、前もって座標を指定することで、瞬間移動を可能にしているのだ。

「これってアレじゃん。猫型ロボットのなんとかドア」

 真人くんに指摘されてからというもの、空間を捻じ曲げるこの扉を開くたび、鼠嫌いの青い猫型ロボットが脳裏をよぎるようになってしまった。

 薄暗い廊下を歩く。わたしにとっての猫型ロボットは間違いなく加茂憲倫だろう。この呪術を成立させる要である特級呪具を特注してくれたのは、加茂憲倫その人なのだから。

 目的の居間には、ハンガーに吊るされた黒い制服がずらりと並んでいる。呪術高専から注文を受けた高専生たちの制服だった。

 高専襲撃の余波で注文が入ることはある程度予想していた。だが、わたしの想像を遥かに上回る注文が舞い込んできてしまい、ここ数日は機織りやら縫製やらでとにかく忙しい。

 注文を寄越した補助監督は急がなくていいと言ってくれたものの、柄にもなく教壇に立つことを選んだ悟くんだけは別だった。

「僕の可愛い生徒たちが揃って明後日から任務なんだよね。一年の分だけでも明日の夜までに何とかしてくれない?」

 “最強”に短納期対応を迫られては頷く他あるまい。

 悟くんの要望通り、東京校一年の制服は昨夜納品を終えたばかりである。とはいえ一部の生徒、特に京都校に通う生徒たちの制服は未だ手付かずの状態だ。多忙な日々はもうしばらく続くだろう。

 冬の制服用の分厚い生地を織りかけて止まった、年季の入った木製の織機。そのすぐ後ろには、繊細な装飾を施された桐箪笥が配置されている。

 最下段から試作の和装を引っぱり出していると、ふいに背後から強い呪力を感覚した。はっと振り返れば、濡れすぼった脹相くんが口を結んだまま立ち尽くしている。

「……びっくり、した。あの……お風呂は?」
「風呂の使い方をに訊けと」

 わたしは足元に落ちていたお手玉のような巾着袋を掴むと、床を強く踏んで立ち上がった。法衣の裾から雫を滴らせる脹相くんの脇を通り過ぎ、廊下の中心で大声を張り上げる。

「真人くん!」

 開いたままの扉から、真人くんがひょっこりと顔を出した。「はーい!呼んだ?」と満面の笑みで廊下を進んでくる。わたしはすかさず文句を言った。

「真人くんが教えてあげて」
「なんで?ラッキースケベのチャンスじゃん。せっかくだし楽しみなよ」

 不躾に与えられた恥辱に身体が戦慄く。「ら……なんだそれは」と背後から小さな声が聞こえて、わたしの喉がひゅうっと鳴った。

 きつく眉根を寄せるや否や、手に持っていた巾着袋を勢いよく投げつけてやった。「えっ?!」と真人くんが驚声を上げたときには、赤い袋はその憎たらしい顔面にべしゃりと直撃している。

「何すんだよ!の馬鹿っ!最ッ低!」
「最低はどっち?」
!絶対に!夏油だって漏瑚だってそう言うね。俺の親切をなんだと思ってんのさ」

 口を尖らせながら、その双眸でもこちらを詰ってくる。

 被害者面を崩さない姿勢に、わたしの頬は小刻みに引きつる。さて、この減らず口の特級呪霊を一体どうしてくれよう。

 静かに息を吸い込んだとき、脹相くんが真人くんの前に割り込んだ。床に落ちた巾着袋を拾い上げると、白檀の香気を放つそれをじっくりと観察し始める。理知的な横顔に呼吸が止まりそうだった。

 真人くんが脹相くんの向こうで下卑た微笑を作る。無言で睨み付けていると、脹相くんがぽつっと呟いた。

「呪い除けの香か」
「俺それ嫌ーい!臭くて仕方ないよ。脹相は平気なの?」
「なんとも思わん」
「え、マジで?受肉したからかな」

 光らない瞳が香り袋から外れる。脹相くんは何も言わず、わたしにそれを手渡した。手のひらに乗る巾着袋に目を落としたまま、わたしは震える声を必死で絞り出す。

「あ、ありがとう……」
「照れちゃって」

 茶化すような声音に朗らかな笑顔を返す。いつでも呪霊除けの香り袋を投擲できるよう、右手を頭上で構えながら。

「真人くん?」
「そんなに怒るなよ。それにしても今日のは可愛いね。表情がころころ変わって飽きないったらないや」
「ま、ひ、と、く、ん?」
「はいはい、わかってるって。行くよ、脹相」

 呆れたように肩をすくめて、真人くんが身を翻した。感情の欠落した黒瞳がわたしを撫でる。話しかけられそうな気がして、即座に目を逸らした。うまく話せるとは思えなくて。

 わたしは二人分の足音が消え失せるのを、息を殺してじっと待ち続けた。



* * *




 事務所に設けたシャワーだけの風呂場から、真人くんの明るい声音が漏れている。わたしは着替えとバスタオルを傑くんに押し付けた。

「これ、脹相くんに渡して」
「自分で渡さないの?」
「そんなことできるわけない」

 即答すると、傑くんに声を差し込まれる前に言葉を継いだ。

「外でお風呂入ってくる」
「脹相と入ればいいのに」
「……傑くんまで」
「ごめんごめん、冗談だよ。気をつけてね」

 ひらひらと鷹揚に手を振る傑くんに背を向けて、梵語の刻まれた木札を別のそれと取り替える。呪符に溺れた扉を再び開けば、目の前にはどこか物悲しい山岳地が広がっていた。

 山は古来より神や精霊が棲まう聖なる場所として知られるが、同時に別の側面も併せ持っている。

 ――数多の死霊や邪悪な魔が跋扈する、畏れの満ちた“異界”。

 名峰霊山で修行すれば呪力が高まるとされるのはそのせいだろう。わたしが今まさしく目にしている山岳地は“異界”としての側面が強い。呪霊が好むような負の情念が至るところで渦を成している。

 寂静な空気を肌で感じながら、深緑をかき分けて進む。歩くたびにシャンプーやらトリートメントやらが入った木桶から乾いた音が響いた。

 一分も経たないうちに、拓けた場所に踏み入れる。視界を濁らせるほどの白い湯気が立ち昇っていることを確認すると、岩の上に着替えとバスタオル、そして脱いだ服を引っ掛けた。

 裸足で冷たい岩場を踏んだ。天然温泉の湯気で周囲の温度が多少上昇しているとはいえ、暦はもう十月である。標高の高い山中で全裸になるにはかなり肌寒い。

 鳥肌の立った体躯を抱えていると、角張った岩場に腰を下ろす漏瑚くんがわたしに気づいた。わたしの濡れた髪に目をやると、パイプ型の呪霊から唇を離して細長い紫煙をくゆらせる。

「どうした。雨にでも降られたか」
「うん。ねぇ漏瑚くん、頭と背中洗って」
「甘えるでないわ」
「心が狭い」
「何だその言い草は!」

 そうやってすぐ怒るのは心が狭い証拠ではないだろうか。沸騰したやかんのような漏瑚くんから視線を外したとき、湯気の向こうで大きな影が揺れた。波が打ち寄せるような派手な水音を伴って。

 聞き取るどころか、人間には発音すら不可能な独自の言語が響いたかと思えば、それに重なるように穏やかな声が頭蓋骨の中でうわんと反響する。

、私でよければお手伝いしますよ)

 その巨大な影はすぐに確かな輪郭を描いた。つい先日呪術高専を混乱に陥れた特級呪霊が、濁った白煙を引き裂くように姿を現す。

(そろそろ動きたいと思っていたのです)

 花御くんの言語は、限りなく神仏のそれに近い。

 それは呪いである花御くん自身が神仏や精霊に一層近いという証拠に他ならない。使用する言語そのものが、神仏へと至る道しるべとなるのだ。

 神仏との感応によって術を展開するわたしのような術師に対して、花御くんの声音は術式の開示を遥かに上回る絶大な効果をもたらす。ドーピングと呼ぶには生ぬるいほどに。

 とはいえ、聴覚を一切介すことなく、意識下に直接話しかけられるというのは実に不思議な感覚だ。神仏の場合は理解不可能な音で終わるが、花御くんの場合はそこに意味が付随するだけまだ親切と言えるだろう。

 この感覚は膝の皿を指先でくすぐられるのとよく似ている。漏瑚くんが「頭が痒い!」と苛立ちを覚えるのは無理もないかもしれない。

「もう大丈夫?」
(ええ。ずいぶん回復しました)
「よかった」

 温泉から出た花御くんは、冷たい岩の上に腰掛けたわたしの背後で膝をついた。木桶に横たわるシャンプーを手に取ると、右手だけで器用にわたしの髪を洗い始める。

 漏瑚くんがわたしのすぐ近くに座る。手のひらの上で赤い炎が揺らめいて、裸体を撫でる空気の温度が上がっていく。ちっとも寒くなかった。「ありがとう」と笑んでみせると、目を逸らした漏瑚くんが照れ臭そうに鼻を鳴らした。

 ゆっくりと目を閉じる。花御くんの指が、わたしの地肌に優しく触れている。

 ヘアサロンのアシスタントより、ずっと下手な指遣いだった。だがそこには深い思いやりがあったし、何よりとても楽しそうで心地よい気分になる。あのアシスタントか花御くんかと問われたなら、わたしは何度でも花御くんを指名するだろう。

 シャンプーの白い泡が流れていく。沈丁花を含んだトリートメントの香りが鼻腔に届いたとき、わたしは花御くんを仰いだ。

「九相図が受肉したよ」
(ということは、脹相とかいうのお気に入りも?)
「うん」

 漏瑚くんの顔に怪訝な色が走る。

「受肉させたところで戦力になるのか?」
「悟くんには絶対勝てないし、兄弟で不意打ちを仕掛けても駄目だろうね」
「彼奴を物差しにするでない!何の参考にもならんわ!」

 理不尽な物言いだと肩をすくめる。漏瑚くんは悟くんを物差しにするくせに。文句を言いたかったが火に油を注ぐ結果になることは目に見えているので、大人しく口を噤む。

 まるで弄ばれるように“最強”に敗北を喫した漏瑚くんは、悟くんのことを誰よりも敵視している。規格外の悟くんに負けることは決して恥ではないが、よほど戦闘中に虚仮にされたのだろう、その憤怒は凄まじい。悟くんのことだ、弱いだのなんだのと神経を逆撫でるようなことを平気で口にしたに違いない。

 トリートメントを流しながら、花御くんが優しい声音でわたしに尋ねる。

(彼と何か会話はできましたか?)
「それが全然駄目。普通にできなくて、事あるごとに逃げたくて……どうしたらいいんだろう」
(まずはその弱気をやめるところから。相手がとの会話を望んでいるなら、どれだけ時間がかかろうとも耳を傾けてくれます)
「それは森や海や空も同じ?」
(同じですよ)

 背中を丁寧に洗ってもらいながら考えた。これからわたしがどうすべきか。脹相くんに対してどう接するべきか。

 答えが導き出されたのは、熱い温泉に浸かってしばらく経った頃だった。水面を漂う芍薬の花が胸元にぶつかって静止する。純白の芍薬から花御くんへと視線を移す。きっとわたしを励ますためだろう、人差し指の先から鮮やかな芍薬を生み出しては、湯の上にそっと乗せている。

「会話から逃げない」

 わたしは腰を上げた。わたしを中心に波が立ち、白い芍薬が大きく揺れた。折り畳んだ膝を伸ばしながら花御くんを見つめる。

「目を合わせられなくても、顔が見れなくても、ちゃんと話したい」
(ええ。なら、きっと)

 花御くんは穏やかな響きを与えてくれた。照れ臭い気持ちを隠しながら、湯冷めしないように急いで着替えを済ませる。

 漏瑚くんがわたしの濡れた髪の乾燥を終えると、花御くんは乱れた髪を指で梳いて整えてくれた。仕上げとばかりに、長い人差し指から黒い花が咲く。そしてそれをまるで簪のように、わたしのこめかみに差し込んでいった。

(やはりには黒百合が似合いますね)
「呪詛師に相応しい花言葉だから?」
(人は黒百合に“恋”という意味も与えた。のその恋は“呪い”と等しいものでは?)
「そうかも」
(これほど愛らしくなったあなたなら笑顔で座っているだけでも大丈夫ですよ)
「おだてるのが上手」
(いいえ、本心です)
「花御くん、ありがとう」

 顔を見合わせて礼を言う。脹相くんとも自然に話したいものだが、わたしを撫でる黒瞳を少し思い出すだけで茹だってしまいそうだった。

 荷物を抱えて来た道を引き返す。逢魔が時が迫っていた。すぐに夕飯の仕度に取り掛からなければと気持ちが急く。

 数歩進んで、振り向きざまに「漏瑚くんもありがとう」と手を振った。面倒臭そうな色を灯した単眼は、己の吐いた紫煙の行方を追っている。だが、その左手はわたしに向かって軽く掲げられていた。

 口端に小さな笑みを刻む。負の情念が満ちる空を一瞥して、わたしは帰路を急いだ。